2003年7月6日(日)
<仕事だけの人が袋小路にはまる>
ひとつの企業とか業界が社会的な過ちを犯したり
信頼性を極端に落としたりすることが増えてきました。
これは社会の価値観と自分たちが遊離している状態に
気づかないからです。
みんな「わが業界は特別で、昔からこうやっていて
何も問題はない」とか「隣の会社も同じ」というように
一度染みついた価値観をどうしても変えられない。
違う視点から見ることができない。
閉じている単一価値観の中で判断するから
そこで行われているおかしなことがおかしく
見えない。そうすれば変だなと疑う力がなく
それが危ないのです。
一つの価値観しか持てない硬直した人間に
ならないために、A面に仕事、B面に趣味でも
社会奉仕でももって生きていってほしい。
今まで言われているような、壮年期まで
仕事一筋で、リタイアしたら趣味をなどと
呑気なことではなく、両面の厚みを持つ生き方が
仕事人としての底力になると言いたいのです。
あなたが育ててきたB面が、複眼的な価値観となって
企業をも支えていくことになるからです。
私は50年も蘭の栽培を趣味にしてきましたが、
これによって、違う世界の多くの人との出会い
があり、また仕事で難問を抱えても帰宅して蘭の
世話をしているときに解決策がわいてくるという
経験を持っています。B面はなんでもいいい
絵画、音楽、彫刻、歴史、ファッションや
コレクション、天文が好きとか、虫が好きとか
夢中になれるものが誰にもあるでしょう。
それを別の角度の視点にする。
良い商品、新しいプログラム、新しい
コマーシャルなどはそのB面がなければ
生まれてきません。それば企業の人気と直結
していく要素でもある。頭の固い人間が
けしからんと言っているような、
軽やかな側面にこそ次の価値を
生み出す原動力となるはずです。
<芸は身を助ける>
資生堂の車台社長である福原信三は、絵で身を立てたいと
考えていた人です。しかし創業者の有信が、ただ趣味だけに
生きる人間であってはならないと厳しく律し、
信三はその絵心と美の本質を見る目を経営に生かすことになります。
今も使われている花椿のマークや資生堂のロゴ、パッケージの
デザイン、宣伝手法などは、当時としては正に創造的な価値観でした。
私は、生物や自然についての関心のおかげで
生命観や自然観といった人間の大切な価値を
学ぶことができたと思っています。
後に習い覚えた写真の技術でジャーナリストと
知り合うことも機会にも恵まれていきました。
時代感覚をどう磨くか、それを教えてくれたのは
彼らです。
「サクセスフル・エイジング
(美しく年を重ねる)」
という大きなテーマが私の心の中から
湧き上がってきたのも、こういうB面の
積み重ねがあったからわき出たのです。
仕事はいつも目の前に合って
私たちを駆り立てます。
処理が遅れたら支障をきたすものがほとんどです。
しかし、人間でも企業でも、趣味や文化という
豊かなB面を大切に育てていくとたっぷりに
エネルギーが蓄えられていく。
それが大きな支えとなり、目に見えない指針を
指し示していくのです。
●●●福原義春●●●
1931年、東京生まれ
資生堂の創業者、福原有信の孫
1953年慶応義塾大学卒業後、資生堂入社
商品開発、企画、国際などの部門を経て
1987年、第10代社長に就任
経営改革、社内の意識改革に着手する
化粧品事業100年の節目にあたる1997年より会長
2001年より名誉会長を務める
文化や社会への貢献に力を注ぎ
「日仏文化サミット」を始め多くの
文化事業の支援活動に従事
主な著書に
「生きることは学ぶこと」
「部下が付いてくる人」
「会社人間、社会に生きる」
他多数